ゲームアート制作の世界では、イテレーション(ある工程を短期間で繰り返す開発サイクルのこと)は避けられません。構想から発売に至るまでに、ゲーム開発の各フェーズにはゲームデザインを洗練し強化する機会があります。しかし、過度なイテレーションはチームの士気を下げ、際限のない延期を招き、さらにはゲームの開発断念へとつながる危険性をも孕んでいます。
本記事では、当社のグローバルアートディレクターの洞察をもとに、制作パイプライン全体でイテレーションを標準化し、過剰な修正や高速処理を回避、イテレーションをアーティストにとっての脅威ではなく進歩の基礎として再構築するためのベストプラクティスをお届けします。
チーム全体で柔軟性と安定性のバランスを取る
時間をかけて改善するためにイテレーションを必要とするプロジェクトと、コミットメントを必要とするチームとの間には、自然な緊張が生じます。しかし、絶え間ない方向転換によって「努力が無駄になっている」と感じることなくコンテンツを完成させるために、デザイナーが必要とする柔軟性と、アーティストが必要とする安定性を、いかに調和してゆけばよいのでしょうか。
どちらの観点もさまざまな制作フェーズにおいて有効であり、イテレーションは確かにリスクにもメリットにもなり得ます。適切な計画とオープンなコミュニケーションがあれば、チームは足並みを揃え、この反復のサイクルを快適に実施できます。
ゲーム制作の各フェーズにおけるイテレーション
まず第一歩として、ゲーム制作の典型的な段階をマッピングしておくとよいでしょう。各フェーズで起こり得る方向性の変化も含め、パイプライン全体を総合的に見ることで、チームはいつイテレーションが発生するか、そしてそれにどう対処するかをよりよく計画できるのです。

各フェーズの自然なイテレーションポイントにより、アートの大幅な修正が発生するリスクが生じます。製品戦略やビジョンの更新は全体を通して行われる可能性があり、各マイルストーンの「達成」などは脆いものです。後に行われる変更は、初期段階で行われた作業に連鎖的な影響を与えるかもしれないからです。
例えば、あるゲームをエッジの効いた大人向けのプラットフォームゲームとして開発し始めたとします。しかしプロジェクトが進むにつれ、弁護士や投資家、パブリッシャーとの取引やコミュニケーションを経て、突然ゲームの描写をより子供向けなものに修正する必要が生じる場合があります。つまり、アートスタイルを作り直し、戦闘のトーンを和らげるか、もしくは完全に考え直さなくてはならないわけです。ゲーム内のVFXも、流血を描けない国で発売できるように変更しなければなりません。
これは、ゲームに変更が生じた場合に議論の必要性が生まれる多くの要素を示す一例に過ぎません。このように、プロジェクトの健全性にとっては、あらゆるイテレーションがリスクと利益の両方になり得るのです。
その変化が健全であるか不健全であるかの診断
すべてのイテレーションが同じように作成されるわけではありません。変更を2つのサブタイプに分類すると良いでしょう。1つは、これまでの作業を基礎とする建設的な(健全な)イテレーション。もう1つは、先に述べた「大人向けのプラットフォームゲーム」の例のように、過去の取り組みを無効にする破壊的な(不健全な)イテレーションです。
ゲーム開発にやり直しはつきものです。しかし、計画やコミュニケーションが不十分なために不健全な方向転換が起こると、アーティストは自分の仕事が「無駄になった」と、憤りを感じることがあります。
例えば、あるゲームの最初のマイルストーンとして、アートチームが美麗なキャラクターたちを完成させたとしましょう。さて、このチームはマイルストーン2に到達しています。上層部はこれら一連のキャラクターを長い間見続けているような気がしており、もはや目新しさやフレッシュさは感じません。そこで、彼らは決心します。「もう1回やり直そう。そしてちょっと違う感じにしよう!」と。
この決定はまるで是正のように感じられますが、実際には破壊的なものです。かつ、ゲーム業界ではよく見られることです。アーティストたちは困惑します。3ヶ月前には芸術の頂点に達したはずの、最初のマイルストーンで作成したこの一連のキャラクターたちが、どうして今では、古くて望ましくないとみなされるのか?
アートディレクターに求められる責務のひとつは、瞬間的に現れる気まぐれに注意深くアプローチし、次の新しくて輝かしいものを追い求めるゲームチームの傲慢を抑制することです。プロジェクトを成功に導くことで、全体としてチームが失敗したのだというふうに感じさせないようにしなければなりません。
アートがやり直しになる一般的なきっかけ
ゲームアートの変更のきっかけとなる最も一般的な方向転換ポイントを以下にまとめました。
- プレイテスターからのフィードバック: プレイヤーのフィードバックがデザインの変更につながります。
- 技術的限界: オリジナルデザインが、現在の技術では実現不可能である場合。ゲームエンジンやゲームハードウェアの制約に関連している場合があります。
- 予算的制約: プロジェクトの予算超過により機能の削減が発生します。
- 市場トレンドの変化: 業界の新しいトレンドによって、当初のコンセプトが時代遅れになる場合。例えば、どのゲーム会社もMMOを開発している時代に、あるゲームをMMOとして開発したけれど、その後突然、MMOが流行らなくなるような場合などです。
- 社内政治: プロジェクトの方向性を変更するチームや部署内の対立。
- 権力のダイナミクス: チームの総意を覆す大きな影響力を持つ人物の存在。
また、日々のゲーム制作の課題以外でも、企業関連の意思決定が数多く起こり、ゲームの軌道が変わることがあります。
- 戦略的なビジネス上の決定: 合併、買収、企業戦略の変更。
- 機密の財務情報: 予算の削減または再配分。
- 主要な関係者からのフィードバック: 主要な投資家または取締役会からの意見。
- 市場調査: チーム全体で共有されないかもしれないデータ。
- ライセンスまたは法的な問題: 契約の課題や変更。
- 会社の長期的なビジョン: 詳細が伝えられないような、より広範な目標。通常、機密性の高い情報は、大きなグループには共有されないことがあります。
変化を伴う大きな決定を行う場合、変更の根拠となるコンテキストが欠落していると、チーム間に不満が生まれてしまいます。だからこそ、ゲーム制作のあらゆる段階において、良好なコミュニケーションと計画性が重要になるのです。変更を伝える際に、可能な限り「なぜ」を共有することで、チームが感じる苦痛を和らげられます。
Sideのチーム内では、アートリーダーシップチームがイテレーションの標準化について全員が同じ認識を持てることを目標に、「オープンなコミュニケーション」を提唱し、アーティストを決定に参加させ、その努力を認めるようにしています。フレームチェンジは、アイデアの失敗ではなく、アイデアの「成熟」と捉えたほうがいいでしょう。チームはゲームを俯瞰する際に、「必須なもの」と「あれば便利なもの」とを区分けするべきなのです

まとめ
ゲーム開発においてイテレーションは避けられませんが、不健全な変化を緩和することが、ゲームとそのアーティストの内的・外的成功を確保する鍵となります。イテレーションを標準化し、アイデアというものが時間の経過と共に成熟するものだとみなし、過去の仕事を共に積み重ねていると感じられるチームになるには、結束力のあるチームダイナミクスが必要です。それぞれの慣例や取り組みの範囲を規定するために、やり直しの発生を計画に組み込み、部門を超えたフィードバックループを正常化するのです。
ゲームディレクターには、過度なストレスや憤りを招くことなく、イテレーションによって革新が促されるような協力的環境を育む責務があります。これは、これまでにお伝えしたように、「あらゆるフェーズにおけるアーティストとのオープンなコミュニケーション」、「慎重な意思決定」、「アーティストの努力を認め誠実に尊重すること」によって達成できます。
Quotes
「フレームチェンジとは、アイデアの失敗ではなく、アイデアの「成熟」なのです。ゲームを俯瞰する際に、「必須なもの」と「あれば便利なもの」とを区分けする必要があるのです」
この記事はシリーズのパート1です。パート2はこちら。