ゲームローカライズにおけるAIの現状
ゲーム開発は今もなお高速で進化を続けています。世界中のプレイヤーの期待に応えるため、スタジオは週単位でアップデートを重ねており、AAAゲームもインディーゲームも複数の言語での同時ローンチを求められるプレッシャーに直面しています。
このような状況の中で、ローカライズチームは、LLM(大規模言語モデル)、エージェント型ワークフロー、および品質評価ツールといったAIソリューションを活用し、品質を維持しながら成果と業務効率の両面を高めようとしています。
この記事では、AIローカライズ技術の現在地を探ります。現時点で機能しているもの、課題点、そしてスピード・品質・コストのバランスを求めるローカライズチームにとって最も有望なアプローチについてご紹介します。

ゲームローカライズにおけるエージェント型ワークフロー
Sideのチームや業界全体において、ゲーム開発のあらゆる領域でAIの試験・導入が進んでいます。中でも、エージェント型ワークフローは特にその進化が注目されています。
ゲームローカライズの現場におけるエージェント型ワークフローとは、複数の自律的なAIエージェントが連携し、一連のタスクを監督・管理・実行する仕組みを指します。現在、これらのシステムはコンテンツの分類、用語集の品質管理、メタデータのタグ付け、そして翻訳といった業務に活用されています。比較的単純な作業においては、これらのシステムはかなりうまく機能することが確認されています。
しかし、ワークフローが複雑かつ創造的になるほど、業務の信頼性、品質、および効率は低下する傾向があります。これにはいくつかの理由があります:
- チェーンの脆弱性: ワークフローにおけるエージェントの数が増えると、ミスのリスクが高まります。そして、ひとつのエージェントによるミスや誤解でチェーン全体が破綻してしまいます。
- 学習の複雑さ: 多くの現場では、基本的なAIプロンプト設計に苦労しています。効果的なプロンプトの書き方、コンテキスト管理、出力のブラッシュアップといったスキルが不足しているためです。エージェント型ワークフローでは、役割ごとに特化した複数のAIエージェントを連携し、それぞれに異なる指示やパラメータ、そして品質基準を設定する必要があります。しっかりとした基盤がないと、ワークフローの構成が不十分になり、予期せぬトラブルを招くことがあります。
- 大規模な導入: 大規模に導入する場合(特に複数の部門が関与する場合)、ワークフローの複雑さはさらに増します。部門間の連携体制が整っていない場合、エージェント型ワークフローの設計はさらに困難になります。
エージェント型ワークフロー:チェーンの脆弱性の例

こうした課題に対処するには、現実的な期待値を持ち、慎重に導入を進めることが求められます。重要なのは、ワークフローごとの限界を理解し、自分たちのゲームコンテンツに最適な技術を選択することです。
ゲームローカライズ:MTからAIへのシフト
AIを活用したローカライズワークフローでは、現在主に2つの翻訳技術が使われています。大規模言語モデル(LLM)とニューラル機械翻訳(NMT)です。それぞれに長所と短所がありますが、あなたのゲームコンテンツに適しているのはどちらでしょうか?
NMT
DeepLやGoogle Translateのようなニューラル機械翻訳(NMT)エンジンには、特定のコンテンツタイプにおいて選ばれる理由となる、いくつかの大きな利点を備えています。NMTは非常に結果が安定しており一貫性が高いため、同じテキストを繰り返し翻訳しても同じ結果が得られます。信頼性が高いため、メニュー、静的なUI要素、サポート資料など、創造性よりも一貫性が重視されるコンテンツに向いています。
これらのシステムは、特定のワークフローや言語ペアに対して高度にカスタマイズが可能で、 翻訳メモリとの連携により、特にゲームの続編や継続的なコンテンツ更新において非常に強力なツールとなります。スピード、コスト削減、データセキュリティのバランスの良さから、NMTは、現代のローカライズワークフローには欠かせない存在になっています。
一方で、創造性が求められるコンテンツでは、その一貫性の高さがデメリットとなることがあります。NMTエンジンは、LLMのように指示やプロンプトで柔軟に調整できないため、翻訳が直訳的で不自然になりがちです。NMTは特定のデータセットで訓練されており、文脈を理解するのではなく統計的なパターンに基づいて翻訳を生成しているためです。
NMTは、依然としてローカライズワークフローにおいて中心的な役割を果たしていますが、コンテンツの要求がより創造的で複雑になるにつれ、多くの開発者が対話やストーリー要素の翻訳には大規模言語モデル(LLM)を選ぶ傾向にあります。
LLM
一方でGPT-4、Gemini、Claudeといった大規模言語モデル(LLM)は、創造的な対話、ストーリーコンテンツ、文化的ニュアンスを含む翻訳に優れています。詳細な指示に従って翻訳を調整できるため、特定のキャラクターの声やブランドガイドラインに合わせて、トーンやスタイルを柔軟に適応させることができます。
しかし、課題がないわけではありません。一貫性は依然として大きな課題です。プロンプトや用語集を丁寧に準備しても、LLMはページごとに同じ用語を異なる訳語で出力してしまうことがあります。さらに、LLMは従来の機械翻訳よりも創造的なテキストを扱うのは得意ですが、本当に自然な表現には届かないことも多いのが現実です。多くの場合、翻訳は正確で指示通りですが、それでも機械的に感じられることがあります。
人間によるポストエディットを伴うNMTおよびLLM用コンテンツ適合性マトリックス
| コンテンツタイプ | 可能な技術統合 | 注記 |
| UIテキスト/システムメッセージ | ✅ NMT | 短く、機能的で、文脈に基づいたテキスト |
| ゲーム内の指示 | ✅ NMT | 構造化されており、反復的・指導的 |
| クエスト/タスクの説明文 | ⚖️ NMT + LLM | パターン化された内容、軽い調整が必要 |
| アイテム /スキル名 | ⚖️ NMT + LLM | 一貫性の確認が必要 |
| ダイアログ/ストーリーコンテンツ | ⭐ LLM | キャラクター設定や世界観の情報をもとにLLMを訓練し、感情の深みとニュアンスを確保する必要あり |
| 吹き替えスクリプト | 👤 人間のみ | 自然な表現やタイミング合わせが必要 |
| マーケティング/プロモーションコンテンツ | 👤 人間のみ | 創造性とトランスクリエーションが必要 |
両方のアプローチ(NMTとLLM)に明確な限界がある中で、AI翻訳のスケーリングにおいて自動品質評価が極めて重要となります。ここで登場するのが、「品質評価(Quality Estimation:QE)」です。
品質評価 (QE)
品質評価(QE)は、人間のレビュアーや参照翻訳を使わずに翻訳品質を自動的に評価するAIシステムです。このシステムは信頼度スコアを割り当て、問題のある場所にフラグを立てることで、高品質な翻訳はそのまま公開に進め、問題のある翻訳を人間によるレビューに回すことができます。
この技術はすでにいくつかの業界で実用化されており、たとえば、eコマースでは、確立されたモデルと予測可能なコンテンツパターンに基づいてQEが効果的に実装されています。QEは業界内でも大きな注目を集めており、 LocWorld のようなカンファレンスでさまざまなモデルの評価や比較が行われています。
品質評価ワークフローの例

しかし、ゲームのローカライズには、特有の複雑さがあり、現在のQEシステムによる対応が難しい状況です。コンテンツの多様性に加えて、さまざまな作業スタイルが組み合わさることで、各ゲームに対し、標準化されたモデルではなく、カスタム調整されたQEが必要になるのです。標準化されたモデルでは、QEシステムが問題のない箇所にフラグを立てたり、人間のレビュアーならすぐに気付くであろう文脈上の問題を見逃したりする誤検出が多発してしまいます。
根本的な課題はデータにあります。QEシステムは、ゲーム固有のコンテンツではなく、汎用的なデータセットで訓練されたLLMに依存しています。カスタムトレーニングされたモデルは精度が向上する可能性がありますが、どのデータが合法的に学習に使用できるかという法的・商業的な懸念が生じます。
現時点では、ゲームローカライズにおけるQEは現実的なものではなく将来への期待にとどまっています。ゲームコンテンツの複雑さと創造性の高さを考えると、品質保証において人間の専門知識は今後も不可欠です。そのため…
人間の専門知識は依然として不可欠
AIシステムの能力は進化していますが、ゲームローカライズのワークフローにおいては人間の専門知識と監修が依然として重要です。AIシステムを訓練・改善し、チーム間のコミュニケーションを取り、 localization quality assurance (LQA) を行うためには、人の力が必要になるのです。
人間はAIが再現できない文化的な視点を持っています。人間は文脈の中でコンテンツを理解し、自動システムが見逃す問題を見つけ出し、ターゲット市場のプレイヤーにとって自然に感じられるかどうかを判断することができるのです。
AIと人間を組み合わせたシステム: RESOLVE
最も効果的なローカライズワークフローは、AIの効率性と人間の専門知識を組み合わせることです。Sideの RESOLVE は、ローカライズされた Player Support のためのソリューションであり、エージェント型ワークフロー、LLM、NMT、品質評価、人間による監修をひとつの統合システムとして組み込んでいます。
RESOLVEは、言語ペアごとに最適な翻訳エンジン(Google翻訳、DeepL、ChatGPTなど)を選択します。このシステムは、BLEUスコアと独自のアルゴリズムを通じて継続的に翻訳の品質をチェックし、品質の基準を満たさない出力を自動的に人間のポストエディットに回します。自動化された品質基準を満たさなかった場合、人間の専門家が翻訳を修正し、今後の出力を改善するフィードバックを提供します。
さらに重要なことは、RESOLVEがエージェント型ワークフローの脆弱性の原因となる組織的な複雑性を解消できる点です。チームが複数の専門エージェントを手動で調整する必要はありません。このシステムはツールの選定、品質評価、および人間へのエスカレーションを自動的に管理します。そのため、AIの効率性を最大限にいかしつつ、導入時に起こりがちな運用負荷や混乱を回避することができます。
SideのRESOLVEソリューションの技術的な詳細については、こちらをご覧ください。

AIローカライズの最適な選択肢を見極める
AIによるゲームローカライズには可能性がありますが、同様に限界も存在します。エージェント型ワークフローはタスクが複雑になるにつれて破綻しやすく、LLMは創造性に優れつつも一貫性に欠け、NMTは限定的な領域のみに優れていて、品質評価システムはゲームコンテンツにはまだ十分に対応できていません。しかし、このような制約があるにもかかわらず、これらのシステムにはそれぞれの価値があります。個々の技術がそれぞれ成熟するのを待つのではなく、戦略的に統合することにこそチャンスがあるのです。
AIローカライズで成功を収めているスタジオやチームは、まさにこのアプローチを採用しています。すべての新しいツールを導入するのではなく、AIの効率性と人間の専門知識を戦略的に組み合わせる方法を理解しているのです。
あなたのゲームをローカライズする最適な方法をお探しですか?
SideはAIローカライズ技術の専門家として、カスタムワークフローの構築やツールの効果的な統合を行い、インディーゲームからAAAタイトルまで幅広いクライアントに対応しています。ツールの選定、スケジュール、技術的な実現の可能性についてご質問がありましたら、ぜひ、 Sideのチームにお問い合わせください!