『原神』は、2020年9月のリリース以来、ダウンロード数、収益ともに史上最も成功したゲームの一つとなっています。『原神』が成功した大きな要因は、そのゲームプレイはもちろんのこと、モバイルとPlayStationという2つのプラットフォームで戦略的に展開し、両プラットフォーム間のゲーム体験をシームレスに繋げられたことにあります。
複数のプラットフォームで1タイトルをリリースすることは、決して目新しいものではありません。『原神』以前にも、PCと主要な家庭用ゲーム機(Xbox/PS/Nintendo Switch)のような2つのプラットフォームで同時に展開されたゲームは相当数存在します。さらに、モバイル端末の進化に伴い、モバイルプラットフォームは紛れもない有力なプラットフォームとなり、デベロッパーの注目度が高まっています。マルチプラットフォームでゲームをリリースすることで、複数プラットフォームのさまざまなプレイヤーに対応できるだけにとどまらず、デベロッパーがより大きな利益を獲得できる可能性が広がります。
しかし、複数プラットフォームを対象にゲームをローンチする際には、ゲームを開発してPlayStation/Xbox/Nintendo Switchのいずれかで発売するようなケースや、ヒットしたゲームを元のプラットフォームから別のプラットフォームに移植するケースよりも複雑な手順を踏まなければなりません。プラットフォームを追加してゲームをリリースするには、認証テストに合格することが前提条件となります。
認証テストとは何か、ゲーム開発期間中における計画と実行のベストプラクティスを探るため、品質保証のエキスパートであるSide ShanghaiのXing Zhang、Side TaipeiのBruce Lin、Side KoreaのMyoung Gun Kimにインタビューを行いました。
自己紹介をお願いします。
Xing: Side ShanghaiのQAチームリードのXing Zhangです。私は2003年にSide Shanghaiに入社し、QA関連では20年以上の経験があります。
Myoung Gun: Side KoreaのQAチームマネージャー、Myoung Gun Kimです。2014年からSideの一員となり、この10年間で品質保証の分野で幅広い経験を積んできました。
Bruce: Sideのアジア地域QAマネージャーのBruce Linです。2016年からSideに加わり、ゲーム業界には10年以上携わっています。
ゲームの認証テストとは何ですか?
Xing: 認証テストとは、ゲームがさまざまなゲームプラットフォームで動作するための要件や基準に準拠しているかを検証することです。
Sony、Microsoft、任天堂の3大ゲーム機メーカーには、それぞれ順に「TRC」「TCR」「ロットチェック」と呼ばれる、それぞれのゲーム機プラットフォームの仕様書があります。ゲームデベロッパーがこれらのゲーム機でゲームを発売したい場合には、メーカーにゲームを提出して認証テストを受けなければなりません。メーカーが仕様を満たしていることを確認して初めて、その後のリリースが許可されます。
Myoung Gun:
認証テストは、エンドユーザーがそれぞれのゲームプラットフォームでゲームを問題なくプレイできることを確認する、極めて重要な過程です。家庭用ゲーム機(PlayStation、Xboxなど)、モバイル(App Store、Google Play ストアなど)、PC(Steam、Epic Games Storeなど)の各プラットフォームには、独自のコンプライアンスガイドラインがあります。認証テストに合格しないと、製品をリリースすることができません。
認証テストでは、各ゲーム機に対応しているすべての技術とレギュレーションが正しく適用されているかを確認します。これには、グラフィックレンダリング技術(レイトレーシングなど)の効果が発揮されているかの動作確認、独自のコントローラーハプティクスが適切に用いられているかの確認、さまざまなロゴ使用ルールの遵守、ゲーム内課金レギュレーションの遵守などが含まれます。さらに、VRコンテンツについては、ユーザーの安全性や体験に影響を与える可能性がある、あらゆる側面を精査します。
Bruce: その他にも、ボタンの説明文にプラットフォームごとの用語が正しく使用されているか、適切なエラーメッセージがプラットフォームのガイドラインに従って適切な状況で表示されるかなども重要です。
家庭用ゲーム機向けのゲームにおけるQAと、PC/モバイルゲームにおけるQAの違いは何ですか?
Xing: ゲームを動作させることは、モバイル端末と家庭用ゲーム機のプラットフォームで、さまざまな面で大きく異なる可能性があります。
例えば、視覚的な表示では、モバイル端末においてはゲームがフルスクリーンで動作しますが、家庭用ゲーム機のプラットフォームでは通常、ゲームは画面の90%しか占有できません。そのため、UIを設計する際にはデベロッパーはこの点を念頭に置く必要があります。また、モバイル端末とゲーム機では性能が異なるため、解像度やその他の技術的な側面も重要な課題です。家庭用ゲーム機向けのゲームではグラフィックアセットが1080p、さらには4K表示に対応していなければなりませんが、一方モバイルゲームでは、そのような厳しい技術要件はない場合があります。
一般的にPCプラットフォームでは、認証や規制の要件が最小限となります。
Myoung Gun: 通常、PCゲームやモバイルゲームは、エンドユーザー側のスペックが異なるため、さまざまなハードウェアで機能することを確認するために互換性テストを実施します。一方、家庭用ゲーム機向けのゲームは特定のデバイス向けに特別に設計されているため、互換性テストは必要ありません。
それぞれのデバイスプラットフォームの特徴となっている要因のひとつに、プラットフォーム独自の操作があります。ゲームプラットフォームによって、操作方法は異なります。家庭用ゲーム機向けのゲームではスティックやジャイロセンサーを備えたコントローラー、PCやモバイルデバイスではキーボードやマウス、あるいはタッチスクリーンを使用します。家庭用ゲーム機向けのゲームのテストには、さまざまな入力方式の検証が含まれるのです。
最近では、PCやモバイル端末でコントローラーを使用できたり、家庭用ゲーム機でキーボードやマウスを使用できたり、モバイル端末にもジャイロセンサーや振動機能が搭載されたりしています。しかし、ゲームが開発されたプラットフォームによって、操作性はまだ大きく異なるのです。
認証テストでは、家庭用ゲーム機でリリースされたゲームがキーボードとマウス使用できるかが考慮されますが、プラットフォームがそのような操作方法のサポートを強制していない場合は問題にならないこともあります。デベロッパーはこういった操作方法を考慮しておくべきで、QAの段階でもこれをテストするべきでしょう。
家庭用ゲーム機のプラットフォームによって、認証テストはどのように違うのですか?
Xing: Sony、Microsoft、任天堂の各プラットフォームには広範囲にわたる要件があるため、詳細を具体的にすべて列挙することはできません。今回は、重要なポイントをいくつかご紹介します。
- コントローラーのボタンの名前、色、位置はプラットフォームによって異なる(例えばPlayStationでは丸、三角、四角だが、任天堂とMicrosoftではアルファベットのボタンを用いる)
- 4KやHDRといった仕様など、ディスプレイの解像度の要件が異なる
- 各プラットフォームにゲームのクラウドセーブについて独自の規定が存在
- PlayStationやXboxでは、ゲーム内の埋め込みライブストリーミングのような一部機能が許可されない場合がある
- トロフィーや実績はプラットフォームによって異なる場合がある
Sonyと任天堂の仕様書は英語と日本語ですが、Microsoftのものは主に英語で記述されています。
家庭用ゲーム機に関しては、プラットフォームごとに独自のコントローラー構造と命名規則があるので注意が必要です。そのため、ゲームの互換性の有無、共有できる機能、ライブストリーミングの可否、クラウド利用に関する具体的なルールなど、多くの違いが生じます。
また、販売戦略もメーカーによって異なります。家庭用ゲーム機に出すゲームを選定する際に、他のプラットフォームではプレイできない独占タイトルを優先するメーカーもあります。そのため、プラットフォームのストアでそのタイトルを特集してほしいと思うゲームデベロッパーは、厳しい認証基準を満たさなければなりません。
その一方で、幅広い家庭用ゲーム機に対応することで、顧客層の拡大を図るメーカーもあります。前者のアプローチとは対照的に、より多くのゲームデベロッパーを自社のプラットフォームに誘致するために、認証条件を緩和することを選ぶメーカーもあります。
新しい家庭用ゲーム機用のテストにおける課題は何ですか?
Myoung Gun: 新しいゲーム機の発売時には、最先端の「次世代技術」が導入されることが多くあります。Sideでは、テスターが最新技術を実際に体験できるよう奨励しています。家庭用ゲーム機メーカーは、ゲームデベロッパーやテスターが使用するための、一般には入手できない特別なデバイスを製造しています。これらのデバイスは、数量が限られ、販売対象も有資格者だけとなるため、必要な数量を確保するのは困難です。幸いなことに、Sideはすでに相当数の専用のテスト用家庭用ゲーム機を所有しているため、この問題に直面することはありません。
家庭用ゲーム機の3大メーカーは、長期間をかけて新機種を開発するのが通常です。
調達の面で言えば、最新世代のゲーム機は供給が限られているため、当初は調達が難しいかもしれません。解決策としては、タイトルのパブリッシャーとファーストパーティーの両方と協議し、調達について調整することだと思われます。
家庭用ゲーム機での開発に不慣れなデベロッパーが認証テストを受ける際、よく直面する課題にはどのようなものがありますか? その際、どのような解決策をお勧めしますか?
Xing: 家庭用ゲーム機の開発を始めたばかりの中国のデベロッパーにとっては、各プラットフォームの仕様を理解し、提出プロセスを適切に整理できるよう、下調べをしていなければ難しいかもしれません。
中国で開発される多くのゲームは、当初モバイル向けに設計されています。人気が出た後、デベロッパーから家庭用ゲーム機のプラットフォームへの移植を希望する場合が多いです。しかしほとんどの場合、デベロッパーは最初のゲーム開発段階で家庭用ゲーム機との互換性を考慮していません。モバイルゲームを家庭用ゲーム機に移植する際、デベロッパーは互換性のためにゲームメカニクスやロジックの多くをオーバーホールしなければなりませんでした。例えば、家庭用ゲーム機のハードウェア、操作、その他の特殊な要件に対応するために、コードのかなりの部分を修正したり書き直したりする必要があるのです。
Myoung Gun: 韓国のように家庭用ゲーム機向けのゲーム開発の経験が浅い市場でのデベロッパーは、開発の初期段階でプラットフォームの認証要件を理解するのに苦労するかもしれません。
ガイドラインで想定されているよりも多くの項目やテストが必要かもしれません。一部の仕様書は韓国語になっていますが、最新版の仕様書は英語か日本語しかありません。経験の浅いデベロッパーにとっては、資料の理解に苦労するかもしれません。
また、認証要件には新しい項目の追加・削除といった突然の変更もあります。このため、デベロッパーは、チーム内に認証テストのスペシャリストがいない限り、最新の認証要件を把握することが難しくなります。
Bruce: デベロッパーには認証テスト実行に関する専門知識の社内リソースがないかもしれません。最高のROIを得るためには、認証テストの専門知識を持つSideのようなサービスプロバイダーと協力することをお勧めします。
これまでの間に、認証プロセスはどのように変化してきましたか? また、今後どのような変化が予想されますか?
Xing: 認証テストは、ゲーム、ハードウェアデバイス、プラットフォームの急速な発展とともに進化します。例えば、VR技術が出現したことで、VRゲームの業界標準が確立され、認証テストの重要性をさらに浮き彫りにしています。
しかし、その点においてXboxは独自の立場をとっています。Microsoftの現在の戦略では、XboxとPCのギャップを埋めようとしているのです。これにより、Xboxの認証ガイドラインがPCのガイドラインと近付き、結果として要件が緩和されるようになる可能性もあります。
Myoung Gun: ハードウェア技術の進歩に伴い、認証試験における入力デバイスの検証プロセスも進化しています。グラフィックスとサウンドの要件もより厳しくなっているのです。
近年のVR/AR/MR機器の人気上昇により、VR/AR/MR機器はより身近なものとなりました。AI技術の飛躍的な進歩に伴い、今後の認証要件はさらに厳しくなる可能性が高いです。
認証テストを社外ベンダーに委託することの利点と欠点は何ですか? また、アウトソースパートナーと協力する際のベストプラクティスには、どのようなものがありますか?
Myoung Gun: 認証テストを含むあらゆる種類のテストと同様、デベロッパーとテスターグループを別々にすることで、専門知識の深さと不具合を特定する能力を高めることができます。さらにデベロッパー側には、管理業務やコストを削減できるため、開発に専念できるというメリットもあります。
社内にQA部門を持つ大規模なデベロッパーであっても、特に家庭用ゲーム機の認証テストについては経験が限られているため、認証テストの専門会社に依頼することがよくあります。また、中小規模のデベロッパーは、認証テストをアウトソース企業に依頼し、人手やコストなどのリソースを節約した方が効率的である場合もあります。
Bruce: 利点は、デベロッパーやパブリッシャーが、年間を通じてこの人員を維持する必要がないことです。アウトソースパートナーには認証テストのエキスパートがいます。
欠点には、ベンダーの稼働率が予定されているプロジェクトによって異なることです。
アウトソースパートナーと協力する際のベストプラクティスとしては、ベンダーの可用性を確保するために、開発サイクルのできるだけ早い段階でテストの依頼を行うことです。
ゲームを認証テストに出す準備をしているゲームデベロッパーに向けてアドバイスをお願いします。
Bruce: 認証テストの開始日は、ファーストパーティーによる認証の提出から少なくとも1ヶ月前に計画してください。さらに、テストで不具合が多く発見されると思われる場合は、修正後に再テストを行う必要があるかもしれません。
Xing: すべてのデベロッパーには、開発段階でどのプラットフォームでゲームをリリースするかを計画し、できるだけ早い段階で各プラットフォームの認証ルールを理解し、適切なベンダーと事前にコンタクトを取ることをお勧めします。
Myoung Gun: 認証テストのエキスパートを社内に有しているアウトソース企業と協力することで、時間とリソースを節約できるほか、熟練した高いレベルのテストを確実に受けられるなど、大きな利点が得られます。
まとめ
認証テストは、多様なプラットフォームで高品質で一貫性のある信頼性の高いゲーム体験を提供するために不可欠です。パフォーマンス、安定性、規制の遵守にフォーカスすれば、このプロセスを経ることでプレイヤーの満足度を高め、競争の激しいゲーム業界でもそのゲームが全般的に成功できるようになるでしょう。認証テストで豊富な経験を持つSideのような専門家チームは、皆さんのゲームがプラットフォームごとの世界を自由に行き来できるよう支援します。