
計画を立て、予算を組み、ゲームにふさわしいキャスト も揃いました。でも、あなたが思い描くパフォーマンスを実現させるためには、どうすればよいのでしょうか?
本記事は「ゲームVOの秘密に迫る」シリーズ第2弾として、Side グローバルオーディオ制作クリエイティブディレクター、Sini Downingが登場。『The Witcher』シリーズや『アサシンクリード シンジケート』、『ファイナルファンタジーXVI』などのタイトルを手掛けてきた彼女が、約20年にわたって培ってきた知見を共有します。この記事では、収録セッションに向けて準備すべきポイント、ディレクターやプロダクションマネージャーがあなたのビジョンをどうサポートしてくれるのか、そしてポストプロダクションや実装フェーズにおいて注意すべきポイントをご紹介します。

ディレクションと収録
スタジオ準備
予算を組み、収録環境を選び、キャストも決定しました。しかし、実際に収録に入る前に、セッションをスムーズに進めるための重要な準備がまだ残っています。
スタジオ準備が不十分だと、時間と予算が無駄になってしまう可能性があります。このフェーズの目的はスタジオが何を期待すべきかを理解し、すぐに対応できる状態にすることです。
具体的には、以下の項目を含みます。
- 技術要件の確認
- 適切な台本フォーマット
- 明確なアセットラベリング
- 一貫したファイル命名規則
- ディレクター用のコンテキストおよび準備資料
準備が整っていれば、セッションは効率的に進み、パフォーマンスも向上します。プロのスタジオは、マイクの種類やセットアップについてアドバイスできます。早めに相談を始め、クリエイティブな提案に柔軟に対応しましょう。
台本準備
多くのVO台本は、スプレッドシートで管理されています。Excelが完璧だからではなく、単に最も便利な場合が多いからです。台本準備のゴールデンルールは以下の通りです。
- 情報の種類ごとに1列を使用
- セリフとディレクションを混在させない
- ユニークなファイル名を使用
- キャラクター名を一貫して記載
もちろん、演出指示、トーン、シーン設定などのコンテクストも重要です。登場人物は谷を挟んで叫び合っているのか、それとも囁きあっているのか。こうした情報があれば、最初から求めるパフォーマンスを引き出すことができ、時間の節約し、ピックアップ(再収録)も減らすことができます。
技術的な詳細も忘れないでください。オーディオエンジニアは、収録する音声のファイル名や、参考映像の名前を把握しておくことが重要です。台本に記載された名前と実際のアセット名が一致していることを必ず確認してください。複数のメンバーがスタジオセッションの準備を担当している場合、こうした情報は簡単に食い違ってしまいます。
収録セッションのディレクション
あなたは誰よりも自分のゲームを理解しているでしょう。しかし、ゲーム制作に関わる他のプロフェッショナルと同様に、経験豊富なパフォーマンスディレクターの知識とスキルで、作品の完成度をさらに高めることができます。
彼らはあなたのクリエイティブなビジョンを魅力的なボイスパフォーマンスへと変換します。俳優に響く言葉を使い、演劇的な参照や映画的な比較、あるいはさりげない身体的なサインを通じて、必要な演技を引き出しながらセッションの流れを維持します。また、俳優が自由に表現を探求し、自分のリズムをつかめるよう配慮しつつ、オーディオエンジニアが音質に満足し、あなた自身もそのパフォーマンスにワクワクできるような進行を心得ています。

収録の現実:収録ペースト落とし穴
収録スピードは、求められる内容やパフォーマンスを制約する要素によって大きく異なります。セリフは時間の制約なしに自由に収録できるでしょうか?それとも元の言語に合わせてゆるやかにタイミングを取る必要がありますか? モーションキャプチャーやアニメーションに厳密に合わせますか? フェイシャルキャプチャーやアニメーションにリップシンクさせますか? 通常、バーク(短い掛け声や一言のセリフ)は収録ペースを速めることができますが、特定の剣の振り方や突き込みなどの参考映像がある場合には、少しペースが落ちます。
方程式はシンプルです。制約が多いほど、ペースは遅くなる。
技術的な仕様だけでなく、人間的な要素への配慮も欠かせません。ヘッドマウントカメラを装着したり、明るいリングライトを浴びたりする俳優は技術的な課題だけでなく、身体的な負担にも耐えています。休憩は贅沢ではなく、必要不可欠なものなのです。
台本に十分なコンテキストを盛り込み、ディレクターがしっかり準備できるようにすることも重要です。VO収録で最も高くつく言葉は「セッション中に考えましょう」というひと言だからです。一見無害に思えるこのフレーズが、結果的に多額の追加コストにつながることもあります。コンテクスト不足は、俳優がシーンの状況を推測する原因となり、台本の直前変更は、貴重な収録時間を奪います。セッション中は、少なくとも3つの時計(スタジオ、ディレクター、俳優の時間)が動いていることを覚えておいてください。そのどれかを無駄にすれば、コストはすぐに膨れ上がります。
2人の俳優による同時収録などの複雑な要素は、事前に計画されたものであってもタイムラインに影響します。スタジオ内でのフェイシャル・ボディモーションキャプチャには、俳優との技術的なセッティングの時間が必要です。これは、VO収録前に行うROM(可動域)キャプチャでも同様です。現場で追加コンテクストを提供できる人がいるのは理想的ですが、複数の関係者がリモートで参加すると、意見やフィードバックが食い違うサイクルが発生する場合もあります。
この問題を防ぐには、プリプロダクションとスケジュール設定の段階で、期待値をしっかりと共有することが重要です。時間を見積もる際は、技術的制約と人的要素の両方を考慮してください。
Quotes
台本に十分なコンテキストを盛り込み、ディレクターの準備を助けることも重要です。だからこそ、VO収録で最も高くつく言葉は「セッション中に考えましょう」というひと言なのです。
台本の管理
収録内容、採用されたテイク、まだ収録が必要な部分などを記録・管理する担当者が必要です。Sideでは、台本を専用ツールに移行し、リアルタイムで管理しています。
他のスタジオでは、台本管理担当者がいる場合もあれば、印刷した台本に注釈を加えることもあります。いずれにしても、重要なのは明確さです。正しく管理されていなければ、クリーンも、マスタリングも、納品もされません。
ポイントは、スタジオに入る前に「誰が台本を管理するのか」「ピックアップの計画をどうするのか」を明確にしておくことなのです。
制作管理
VO制作に欠かせないもう一人のキープレイヤーは、プロダクションマネジャーです。台本を送り、俳優が来て、ファイルを収録するだけ。外から見ると、収録は、簡単なプロセスに見えるかもしれません。しかし、そのスムーズな流れの裏には、プロダクションマネジャーが次のような業務を調整しています。
- スタジオ用の台本準備
- 俳優、ディレクター、スタジオ時間のスケジューリング
- タレント契約の管理
- アセットや承認の確認・追跡
- チームを間のコミュニケーション・調整
- セッションの進行状況の管理
- スケジュール調整による進行維持
小規模チームにとって、頼れる制作パートナーは命綱です。また、大規模プロジェクトでVO制作の複雑なプロセスが破綻せずに済むのは彼らのおかげなのです。
ピックアップ対応
収録がどんなにうまく進行しても、ピックアップ(再収録)が発生する可能性は高いです。セリフ抜けや台本の変更、QAでの問題の指摘など、ピックアップは避けられないものであり、計画に組み込んでおくべきです。俳優にとっては、ピックアップセッションはブースでの滞在時間が増えるだけ(もちろん通貨報酬が発生します)かもしれません。しかし、制作チームにとっては、ピックアップとは時間と予算を要する小さな制作サイクルです。ピックアップをあらかじめスケジュールに入れておけば、すべてのセリフを完璧に仕上げることができます。
ポストプロダクションと実装
ポストプロダクション
ポストプロダクションは、収録したパフォーマンスを洗練されたゲームオーディオへと仕上げる工程です。
Sideでは、通常、ポストプロダクションを3つのレベルに分けています。
- トップ&テイル:基本処理。ファイルの冒頭と末尾の無音をトリミング。
- エディトリアル:収録音声に魔法をかける作業。ファイルの書き出し、ファイルの命名、ピークやポップノイズの確認、基本的なレベリング、QA。
- マスタリング:さらに磨きをかける作業。トーンのバランス調整、軽い処理、セッションや俳優間での音質の統一。
小規模なオーディオチームの場合、ポストプロダクションをサービスプロバイダーに依頼することで、時間を節約できます。彼らは音声ファイルの取り扱い経験があり、咳や笑い声、間など自然なニュアンスを残したい場合でも、最も効果的に仕上げる方法を熟知しています。
重要なのは、ポストプロダクションの期待値を事前に明確にしておき「何が含まれているか」、「どこからが追加費用か」、「本当に必要なものはなにか」など、自分自身とプロバイダーに正しい質問を投げかけることです。
実装とオーディオ統合
VOファイルが納品されると、それをゲームに組み込む必要があります。しかし、VO収録が終わる頃には、担当者は大抵、非常に忙しくなっているものです。
パイプラインの後半では、オーディオチームはBGMや効果音の制作、バグ修正などを同時にこなしている可能性があります。そこに突然、何百ものVOファイルが届き、配置・同期・テストが必要になります。実装サポ―トの計画を早期に立てることが不可欠です。Sideでは、このようなサービスを提供していますが、すべてのスタジオがこのサービスを提供しているわけではないため、事前に確認する必要があります。
さらに、外部のパートナーに実装を任せる場合、ビルドに直接アクセスすることになるため、ITサポートやセキュリティ体制が整っているかどうかを事前に確認することが重要です。

成功に向けた準備
ゲームのVO制作は、計画と予算設定から、収録セッションのディレクション、最終的なオーディオの仕上げにいたるまで、複数の工程を経て進められ、その過程で下されるひとつひとつの判断が重要な意味を持っています。プリプロダクションでどれかひとつの工程を見落としたり、収録セッションを急ぎすぎたり、ポストプロダクションでの品質管理を省略したりすると、そうした些細な抜けが、大きなコストにつながります。
VO制作において、成功と失敗を分けることは予算ではありません。大切なのは、「何が必要か」「いつ必要か」を正確に把握し、試行錯誤なしで結果を出せる経験豊富なパートナーと組むことです。
小規模なインディー作品でも、グローバルローカライズを伴う大規模なプロジェクトでも、基本は同じです。徹底的に計画し、信頼できる人々と協力し、プロのガイドを過小評価しないこと。それが成功の鍵なのです。
セカンドオピニオンや確かなスタート地点をお探しの場合は、ぜひ、ご相談ください!